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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)4128号 判決

原告(反訴被告)

竹澤明彦

被告(反訴原告)

浅井弘行

反訴原告

有限会社光月堂

反訴被告

三菱鉛筆千葉県販売株式会社

ほか一名

主文

一  被告・反訴原告は、原告・反訴被告に対し、金一〇万円を支払え。

二  原告・反訴被告は、反訴原告有限会社光月堂に対し、金二万七〇二〇円及びこれに対する昭和六二年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告・反訴被告のその余の本訴請求、反訴原告有限会社光月堂のその余の反訴請求及び被告・反訴原告の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴については被告・反訴原告の負担とし、反訴については被告・反訴原告及び反訴原告有限会社光月堂の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告・反訴原告(以下「反訴原告浅井」という。)は、原告・反訴被告(以下「原告」という。)に対し、金一〇万円及びこれに対する昭和五九年九月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は反訴原告浅井の負担とする。

3 第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件)

一  請求の趣旨

1 反訴被告三菱鉛筆販売株式会社(以下「反訴被告三菱」という。)及び反訴被告安斉利幸(以下「反訴被告安斉」という。)は、反訴原告浅井に対し、各自金三〇〇万二八八〇円及びこれに対する昭和六一年五月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 原告、反訴被告三菱及び反訴被告安斉は、反訴原告浅井に対し、各自金一二六六万九七二一円及びこれに対する昭和六一年五月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は原告、反訴被告三菱及び反訴被告安斉の負担とする。

4 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 反訴原告浅井の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告浅井の負担とする。

(反訴・昭和六二年(ワ)第一一一六八号事件)

一  請求の趣旨

1 原告は、反訴原告有限会社光月堂(以下「反訴原告光月堂」という。)に対し、金一七万〇九〇〇円及びこれに対する昭和六二年八月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 反訴原告光月堂の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告光月堂の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告は、反訴原告浅井に対し、昭和五九年九月四日、金一〇万円を支払い、反訴原告浅井は、これを受領した。

2 反訴原告浅井は、右金一〇万円を、法律上の原因のないことを知りながら受領したものである。

よつて、原告は、反訴原告浅井に対し、不当利得返還請求権に基づき、前記金一〇万円及びこれに対する昭和五九年九月一〇日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は否認する。

三  抗弁

1 別紙交通事故目録二記載の交通事故(以下「第二事故」という。)が発生した。

2 原告は、第二事故の加害車(以下「竹澤車」という。)の運行供用者であり、また、第二事故は、原告の過失により生じたものである。

3 反訴原告浅井は、第二事故のため金一〇万円を越える損害を被つた。

(右損害の内容及び金額は、反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件の請求原因3と同旨である。)

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1、2の事実は認める。

2 同3の事実は否認する。

(反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件)

一  請求原因

1(一) 別紙交通事故目録一記載の交通事故(以下「第一事故」という。)が発生した。

(二) 本訴抗弁1と同旨。

2 責任原因

(一) 反訴被告三菱は、第一事故の加害車(以下「三菱車」という。)の運行供用者であり、また、第一事故は、反訴被告安斉の過失により生じたものである。

(二) 本訴抗弁2と同旨。

3 反訴原告浅井の損害

(一) 反訴原告浅井は、第一事故のために頭部及び左肘打撲、頚部捻挫の傷害を受けた。

(二) 反訴原告浅井は、第二事故のために第一事故で治療中の頚部に損傷を受けた。

(三) 右(一)、(二)の受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 第一事故により生じたもの

ⅰ 伊藤外科医院通院交通費 金三万一三六〇円

ⅱ 同医院入退院交通費 金三万円

ⅲ 同医院通院付添費 金一万七九二〇円

ⅳ 墨東病院通院交通費 金六〇〇円

ⅴ 入院雑費 金二万三〇〇〇円

ⅵ 逸失利益 金二一〇万円

反訴原告浅井は、第一事故による前記受傷のため、昭和五九年四月一日から同年七月一五日までの間一か月当たり金六〇万円の減収となつた。

ⅶ 慰藉料 金一〇〇万円

ⅷ 弁護士費用 金三〇万円

(合計金三五〇万二八八〇円)

(2) 第一事故及び第二事故が競合して生じたもの

ⅰ  治療費 金一七二万八八二九円

ⅱ  入退院、通院交通費等 金一五九万〇八九二円

ⅲ  逸失利益 金六七五万円

反訴原告浅井は、第一事故及び第二事故による前記受傷のため、昭和五九年七月一六日から昭和六〇年五月三一日までの間一か月当たり金六〇万円の、同年六月一日から同年八月三一日までの間一か月当たり金一五万円の、各減収となつた。

ⅳ  慰藉料 金一五〇万円

ⅴ  弁護士費用 金一二〇万円

(合計金一二七六万九七二一円)

4 損害の填補(一部弁済)

(一)  反訴被告安斉から 金五〇万円

(二)  原告から 金一〇万円

よつて、反訴原告浅井は、民法七〇九条、七一九条、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、反訴被告三菱及び反訴被告安斉に対し、各自前記3(三)(1)の損害合計金三五〇万二八八〇円から4(一)の金五〇万円を控除した残額金三〇〇万二八八〇円及びこれに対する昭和六一年五月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を、原告、反訴被告三菱及び反訴被告安斉に対し、各自前記3(三)(2)の損害合計金一二七六万九七二一円から4(二)の金一〇万円を控除した残額金一二六六万九七二一円及びこれに対する昭和六一年五月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を、それぞれ求める。

二 請求原因に対する認否

(原告)

1  請求原因1の事実について、(一)は不知、(二)は認める。

2  同2(二)の事実は認める。

3  同3の事実について、(一)は不知。(二)は否認する。(三)は不知ないし否認する。

4  同4の事実は認める。

(反訴被告三菱・反訴被告安斉)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。

3  同3の事実について、(一)のうち、反訴原告浅井が第一事故のために頭部打撲の傷害を受けたことは認め、その余は不知。(二)は否認する。(三)は不知ないし否認する。

4  同4の事実は認める。

三 抗弁(反訴被告三菱・反訴被告安斉)

1  過失相殺

反訴原告浅井は、路上作業をしており、三菱車が後退し始めたのを確認したのであるから、その動静に注意すべきであるのに、これに全く注意を払わず、また、三菱車のエンジン音等からその接近が容易に認識しえたに拘らず何等の事故回避措置をとらなかつたものである。

2  弁済

反訴被告三菱及び反訴被告安斉は、反訴原告浅井に対し、第一事故による損害の弁済として合計金二二〇万七二九〇円(反訴原告浅井が損害の填補として控除した金五〇万円を含む。)を支払つた。

四 抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張は争う。

2  同2の事実は認める。

(反訴・昭和六二年(ワ)第一一一六八号事件)

一 請求原因

1  本訴抗弁1と同旨。

2  第二事故は、原告の過失により生じたものである。

3  第二事故によつて反訴原告光月堂所有の被害車が破損した。反訴原告光月堂は、被害車を有限会社ワタナベモータースで修理し、昭和五八年八月二〇日同会社に対し修理代として金一七万〇九〇〇円を支払い、同額の損害を被つた。

よつて、反訴原告光月堂は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、前記損害賠償金一七万〇九〇〇円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和六二年八月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実について、反訴原告光月堂が被害車を所有していること、修理代につき金二万七〇二〇円の限度で認め、その余は不知。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証、証人等目録記載のとおり。

理由

一  第一事故について

1  反訴原告浅井と反訴被告三菱及び反訴被告安斉との間において反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件請求原因1の事実は争いがなく、反訴原告浅井と原告との間において、成立に争いのない甲第一号証の一ないし四によれば、別紙交通事故目録一記載の内容(但し、事故発生時刻は午後二時三〇分ころと認められる。)の交通事故が発生したことが認められる。

2  反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。

3  そこで、反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件請求原因3(一)の事実について検討する。前記甲第一号証の一ないし四、成立に争いのない甲第四号証の二、三、甲第五号証の一ないし五、甲第六号証の一ないし四、甲第七号証の一ないし一三及び反訴被告安斉本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  第一事故の態様は、三菱車が時速約五キロメートルの速度で後退し、左折した際、三菱車前部右側ドアがしやがんでいた原告の頭部に接触したというものである。その際、反訴原告浅井は転倒したりはせず、三菱車の右側ドアには何等の損傷も生じなかつた。

(二)  反訴原告浅井は第一事故直後は特に苦痛を訴えることはせず、反訴被告安斉の氏名等を確認しただけで、そのまま反訴被告安斉と別れた。反訴原告浅井は、その後同日中に成田赤十字病院で頭部外傷との診断で治療を受け、同病院の診断では当日一日のみの治療で同月二七日には治癒見込みであつた。

(三)  反訴原告浅井は翌二三日以降も墨東病院、江東病院等に入院及び通院し、頭頚部外傷、頚部挫傷等の診断名で治療を受けているが、その間の反訴原告浅井の症状は、いずれも愁訴に基づくもののみでレントゲン撮影及び断層撮影の結果並びに神経学的所見には異常がなく、その他反訴原告浅井の愁訴を肯認しうる他覚的所見はない。

反訴原告浅井の本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前記各証拠に照らし採用することができない。

そして、以上の事実によれば、反訴原告浅井は、第一事故の結果、全治六日、治療必要日数一日の頭部外傷の傷害を負つたことが認められるが、第一事故の態様、反訴原告浅井の他覚的所見等に鑑みると、反訴原告浅井が右認定の傷害を越えて主張の傷害を負つたものと認めることは困難である。

4  第一事故による反訴原告浅井の損害

(一)  治療費 金一万一六四〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第六号証によれば、前記成田赤十字病院における治療費は金一万一六四〇円と認められる。

(二)  慰藉料 金一万円

反訴原告浅井の受傷内容、治療経過等に鑑みると、反訴原告浅井に対する慰藉料としては金一万円をもつて相当と認める。

したがつて、第一事故による反訴原告浅井の損害は合計金二万一六四〇円というべきであり、これを越える反訴原告浅井の損害の主張は失当である。

5  反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件抗弁2の事実は当事者間に争いがない。そうすると、その余の点につき考慮するまでもなく、反訴原告浅井の第一事故による損害はすべて弁済により消滅していることが明らかである。

二  第二事故について

1  反訴・昭和六一年(ワ)第四八二七号事件請求原因1(二)(本訴抗弁1)、同2(二)(本訴抗弁2)の事実は当事者間に争いがない。

2  前記甲第五号証の一ないし五、甲第七号証の一ないし一三、成立に争いのない甲第二号証の一、三ないし八、甲第八号証及び原告本人尋問の結果によれば、反訴原告浅井は、第二事故当時、第一事故による受傷の治療として墨東病院及び伊藤外科医院に通院していたものであり、昭和五九年七月一五日に第二事故により受傷したとして伊藤外科医院で加療三週間の頚部捻挫との診断(甲第二号証の二)を受けて入院したこと、しかしながら、墨東病院及び伊藤外科医院のカルテ上第二事故の前後で他覚的所見に特に変化は存在しないこと、また、第二事故の態様は、竹澤車が時速約一〇キロメートルの速度で被害車に追突したものであるところ、右事故の結果、竹澤車の損傷は右前部バンパーが僅かに凹損した程度、被害車の損傷も右後部バンパーが僅かに凹損した程度で、いずれも極めて軽微であつたことが認められる。そして、右事実によれば、第二事故の反訴原告浅井に与えた衝撃は軽度のものであつたことが明らかであり、第二事故による頚部捻挫との診断は専ら反訴原告浅井の愁訴に基づいてなされたもので、これを肯認しうる他覚的所見はないから、右診断によつて第二事故により反訴原告浅井がその主張のような傷害を負つたものと認めることは困難である。したがつて、第二事故により傷害を負つたことを前提とする反訴原告浅井の請求は失当といわなければならない。そうすると、結局、反訴原告浅井の右各受傷による損害は、第一事故によるものも、第二事故によるものも、いずれも認めることができず、右損害の存在を前提とする弁護士費用の請求も失当といわなければならない。よつて、反訴原告浅井の反訴請求はいずれも理由がない。

3  反訴原告光月堂が被害車を所有していることは当事者間に争いがない。そして、前示のとおり、被害車は第二事故のため右後部バンパーが凹損したものであるところ、成立に争いのない甲第三号証によれば、右の修理に要する費用は金二万七〇二〇円であると認められる。なお、前記甲第二号証の一、三ないし八及び原告本人尋問の結果に照らすと、前記甲第三号証によるも、被害車に右以外の損傷が生じたものと認めることはできない。したがつて、第二事故による反訴原告光月堂の損害は金二万七〇二〇円となり、これを越える反訴原告光月堂の修理代の請求は失当というべきである。

三  不当利得返還請求について

1  本訴請求原因1、同抗弁1、2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  本訴抗弁3の理由のないことは、前記二2のとおりである。

3  前認定のとおり、反訴原告浅井に第二事故による受傷は認められないものの、伊藤外科医院で頚部捻挫の診断を受け、軽微とはいえ被害車が損傷している事実が認められるのであつて、右によれば、反訴原告浅井が原告から金一〇万円を受領した際、第二事故による損害が存在しないことを知つていたものと推認することは困難である。

4  右によれば、反訴原告浅井は原告に対し金一〇万円を返還する義務があるが、悪意の受益者とは認められないから、原告の金一〇万円に対する利息の請求は理由がない。

四  結論

以上の事実によれば、原告の本訴請求は、反訴原告浅井に対し金一〇万円の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、反訴原告光月堂の反訴請求は、原告に対し金二万七〇二〇円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六二年八月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、反訴原告光月堂のその余の反訴請求及び反訴原告浅井の反訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

交通事故目録

一 日時 昭和五九年三月二二日午後三時三〇分ころ

場所 千葉県印旛郡印南町内野一―六先路上

加害車 自家用普通貨物自動車(千葉四五な四六八一号)

右運転者 反訴被告安斉

被害者 反訴原告浅井

態様 加害車が後退した際、加害車の後部バンパーが反訴原告浅井の頭部に衝突した。

二 日時 昭和五九年七月一四日午後七時四〇分ころ

場所 千葉県船橋市滝台町三番地先路上

加害車 自家用普通乗用自動車(習志野五七む五六三二号)

右運転者 原告

被害車 自家用普通貨物自動車(足立四五ゆ三三〇六号)

右運転者 反訴原告浅井

態様 加害車が被害車に追突した。

以上

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